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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)197号 判決

東京都台東区元浅草3丁目11番3号

原告

キハラ製図機産業株式会社

代表者代表取締役

木原成訓

訴訟代理人弁理士

牛木理一

大阪市東成区中道3丁目15番5号

被告

クロバー株式会社

代表者代表取締役

岡田富二

訴訟代理人弁理士

樋口豊治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第2569号事件について、平成6年6月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「定規」とし、意匠の態様を別紙1のとおりとする登録第751314号類似第1号意匠(以下「本件登録類似意匠」という。)の意匠権者である。

その本意匠である登録第751314号意匠(以下「本件本意匠」という。)は、意匠に係る物品を「定規」とし、意匠の態様を別紙2のとおりとして、昭和61年9月12日に出願、昭和63年9月9日に意匠登録されたものであり、本件登録類似意匠は、平成元年7月11日に類似意匠登録出願され(意願平1-25430号、以下「本件類似意匠登録出願」という。)、平成2年10月25日に意匠登録されたものである。

被告は、平成3年2月20日、本件登録類似意匠の意匠登録を無効にすることにつき審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第2569号事件として審理したうえ、平成6年6月29日、「登録第751314号の類似第1号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年8月3日、原告に送達された。

2  無効審判請求に至るまでの当事者間の紛争の経緯

被告は、平成元年4月ころ、別紙3に示す構成の製品「パッチワーク用定規」(以下「被告製品」といい、その意匠を「被告意匠」という。ただし、「PATCHWORK RULER」及び「CLOVER JAPAN」の文字を除く。)の販売を開始し、これを続けていたところ、原告から、同年6月20日付けの書面で、「被告製品は本件本意匠に類似するので、直ちにその製造販売を中止せよ。」との趣旨の通知を受け、これに対し、被告製品は本件本意匠に類似しない旨応答した。

原告は、その後、被告意匠と同一の意匠につき、その創作者を本件本意匠の創作者である原告代表者木原成訓(以下「木原」という。)として、本件本意匠を本意匠とする類似意匠登録の出願をし、これが認められて本件登録類似意匠となった。

原告は、本件登録類似意匠の登録を受けた後、平成2年11月16日付け書面をもって、再度被告に対し、「被告意匠は、本件本意匠に類似する範囲に属するので、直ちにその製品の製造販売を中止し、併せて関係業界に謝罪せよ。」との趣旨の通知をした。

3  審決の理由の要点

審決は、上記2の事実関係及び被告意匠の創作者は被告の社員である桑原順一であると認定し、被告意匠は本件本意匠との関係においては異なる一つの新たな創作であるとして、これを前提に、木原は被告意匠を創作した者といえず、これを木原の創作に係る意匠としてなされた本件類似意匠登録出願は、出願意匠の創作をした者でない者であって、意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願であるから、本件類似意匠登録は無効とすべきものとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決は、本件登録類似意匠の創作者を桑原順一と確定したうえ、本件類似意匠登録出願において、その創作者名を、本意匠である本件本意匠の創作者である木原としたことにつき、意匠の創作をした者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願であるとして、本件類似意匠登録を無効とした。

しかし、審決が創作者を桑原順一と確定したことは、これを客観的に証明できる証拠に基づかないものであって、違法である。被告意匠の現実の創作者が木原ではなく、原告が現実の創作者からこれにつき意匠登録を受ける権利を承継したことがないことは認めるが、被告意匠は本件本意匠の類似範囲に属するものであるから、本件類似意匠登録出願においては、本件本意匠との本来的、潜在的類似性を確認するために、本件本意匠の創作者である木原を擬制創作者として、願書に記載したものである。

すなわち、類似意匠制度は、登録された本意匠に本来認められる類似の範囲を権利行使の迅速化などの目的のためにあらかじめ確認しておくだけの意味しか有さず、これによって本意匠が本来有する効力範囲(23条)を拡張するものではないと解するのが相当であるから、類似意匠が登録されるかどうかにより、本意匠が本来有する効力範囲は法律上影響を受けるものではないというべきである。

類似意匠制度の趣旨はこのように解すべきであるから、類似意匠として出願された意匠がそこで本意匠とされている登録意匠と類似するときは、たとい本意匠の創作者自身が出願意匠そのものを直接創作した者でないとしても、本意匠と同一の客観的創作性の範囲内にあるものとして、本意匠の創作者を出願意匠の創作者とみなし、これを創作者として出願することは、類似意匠制度の活用として許されるべきである。

本件類似意匠出願は、いわゆる冒認によって出願されたものではなく、被告意匠は、被告自身が秘密を解除して公然と販売していた被告製品の意匠であるから、本件類似意匠出願は、本件本意匠の出願後で類似意匠の出願前公知となった他人の意匠が存した場合の類似意匠登録の可否の問題である。

したがって、審決が、本件登録類似意匠について、本件本意匠との類否のいかんにかかわらず、類似意匠そのものを創作したのが本意匠の創作者でないときは、この者を創作者として類似意匠登録出願をすることが許されないとした点は、意匠法の解釈を誤ったものといわなければならず、審決は違法として取り消されなければならない。

第4  被告の反論の要点

本件登録類似意匠は、被告意匠の完全な模倣であり、被告意匠と全く同一である。

そして、本件登録類似意匠の創作者として願書に記載されている木原が現実の創作者でなく、原告が現実の創作者から意匠登録を受ける権利を承継した者でないことは、原告も認めるところである。

したがって、原告による本件類似意匠登録出願は、明らかに意匠法17条4号にいう「その意匠登録出願人が意匠の創作をした者でない場合において、その意匠について意匠登録を受ける権利を承継していないとき」に該当し、冒認出願以外のなにものでもないから、同法48条1項3号の規定によって、本件類似意匠登録は無効とされるべきであり、これを無効とした審決に何らの違法はない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本件登録類似意匠の創作者が木原ではなく、その出願人である原告が現実の創作者からこれにつき意匠登録を受ける権利を承継したことがないことは、当事者間に争いがない。

意匠登録を受ける権利が、その意匠の創作をした者以外には発生しないことは、意匠法3条1項柱書き、17条4号、48条1項3号の規定等の趣旨から明らかであり、このことは、その意匠登録を受ける権利が類似意匠の意匠登録を受ける権利であるときも、変わりはない。

類似意匠制度は、原告の主張するとおり、登録された本意匠に本来認められる類似の範囲を、権利行使の迅速化などの目的のためにあらかじめ確認しておくだけの意味しか有さず、類似意匠が登録されるかどうかにより、本意匠の範囲には影響を及ぼさないと解すべきであるが、このことは、本意匠の創作者が真実創作していない意匠につき、たとえその意匠が本意匠の類似範囲に属するものであるとしても、本意匠の創作者を創作者として類似意匠の登録出願をすることを、何ら正当化するものではない。

上記当事者間に争いのない事実によれば、本件類似意匠登録は、「その意匠登録が意匠の創作をした者でない者であつてその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたとき」(意匠法48条1項3号)に該当することは明らかであるから、原告が論難する被告意匠の創作者が桑原順一であるとの審決の認定の当否、あるいは、被告意匠が本件本意匠に類似するかどうかにかかわらず、無効とすべきものである。

これと結論を同じくする審決は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

2  よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

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